アートとは何か――「自分の心を知るための外部化装置」
アートは「形や手段」によって分類されますが、根本は*「感情や思考を外に出して伝える」行為の事を指します。
言葉で理解できない感情を、形・色・音・動きに変換することで可視化する行為のことです。
アレキシサイミア
私たちはしばしば、「自分の気持ちがよく分からない」と感じることがあります。
心理学ではこれを**アレキシサイミア(失感情症)**と呼びます。
これは単なる性格の問題ではありません。脳の発達や環境の影響が重なった結果として生じることが多く、言葉や意識として感情を認識できない状態を指します。
目次
「自分の気持ちが分からない」状態が生まれる背景
研究でよく見られるパターンの一例は以下の通りです。
- 元々発達に特徴がある
(感覚過敏・感覚鈍麻、社会的シグナルの読み取りが難しい、イメージで思考する傾向、強い集中やこだわりなど) - 親や周囲がその子の感情を理解しづらい
- コミュニケーションが噛み合わない
- 子どもは「自分の気持ちは理解されない」と感じる
- 感情を表に出すことを抑える、あるいは感じないふりをする
- 結果として「自分の気持ちが分からない」状態になる
脳の特性と育ち方が重なり、感情の輪郭をつかめないまま成長することがあるのです。
感情を外に出す――アートの役割
興味深いことに、感情を言語化できない人ほど、視覚・音・形として外に出す行為が自然に強くなります。
これは、脳が「自分の内側を外に出して観察する」という回路を作り出すための自然な行動です。
アートはまさに自分の心を知るための外部化装置。
感情や思考を形にして見つめることで、初めて理解できるのです。
当事者が直面する現実
現代では「発達」「トラウマ」「神経多様性」といった言葉が広がっています。
しかし、当事者が真実にたどり着けるとは限りません。
親や周囲にとって、この事実は「自分の育て方を否定された」と感じさせることがあります。
「自分のせいで子どもが苦しんでいる」と思いたくないため、無意識に見ないようにする。
その結果、子どもはさらに孤独を感じます。
本人は「何かがおかしい」と感じても、「自分のせいかもしれない」と思い込み、説明のつかない自己否定を繰り返すことがあります。
この苦しみが何年も続くこともあるのです。
過去のアーティストたちの孤独
昔のアーティストは、原因も分からないまま、内面の混乱と向き合わざるを得ませんでした。
アートは唯一、自分の心を外に出す手段でしたが、理解されることは稀で、孤独は深まりました。
現代では、脳や発達、感情処理の仕組みが少しずつ科学的に説明できるようになっています。
当事者が自分を理解する手助けとなるのです。
これは、過去のアーティストたちの犠牲と表現の積み重ねの上に成り立っています。
自分の心を知るために――
「自分の行動や表現の根っこを理解できた」と気づくこと自体、極めて尊い進化です。
アートは苦しみを外に出すだけではなく、自己理解の道具でもあります。
だからこそ、「自分の気持ちが分からない」と悩む人ほど、アートを必要とし、そこからアートは生まれてきたのです。
まとめ
- アレキシサイミアは脳の発達や環境によって生まれることがある
- 感情を外に出すことは、脳が自己理解のために作り出す自然な回路
- アートは「心を知るための外部化装置」として重要
- 理解されない孤独や苦しみの経験も、アートという表現の源泉になっている
苦しみの原因を理解することは、時に残酷ですが、知ることで「自分のせいだ」と思い続ける地獄から抜け出すことができます。
アートはその手段であり、心の道しるべなのです。